あなたの大切な方の介護、毎日本当にお疲れ様です。
「私たちが静かに暮らせるようにしてください」
認知症の語り部 クリスティーン・ブライデンさんはこのように訴えられています。
※以下の記事は、私個人の見解を含みます。
・・今日のポイント・・
- 認知症の方はたくさんの音を脳で処理することが難しい
- 騒音が続くことで不安・混乱を招く
- 静かな時間を
- 落ち着ける場所を
認知症の方はたくさんの音を脳で処理することが難しい
「うるさーい!」と怒鳴られる認知症の方を見かけたことはないでしょうか。
認知症になると、脳に入ってくる刺激を上手に処理することが難しくなります。
これは感覚のスクリーニング機能の障害と呼ばれています。
下の図をご覧ください。
これは若者(健常者)の脳です。
若者の脳は性能の良いパソコンです。
入ってくる情報を「必要な情報」と「必要でない情報」に素早く振り分けることができます。
若者の脳は、必要な情報だけを抜き出すことができます。
このためラジオやTVの音の中でも、相手の会話の内容だけを聞き取ることができます。
このとき、ラジオやTVの音は「必要でない情報」として無視されます。
今度は認知症の方の脳を見てみましょう。
認知症の方の脳は、感覚のフィルター機能が落ちています。
「必要な情報」と「必要でない情報」を振り分けることが難しく、大量の音の情報がそのまま脳に流れ込んできてしまいます。
感覚のフィルター機能には、脳の多くのメモリーを消費すると言われています。
必要な情報だけを抜き出すことが難しいため、相手の話をキャッチするのが難しくなります。
たくさんの音が頭に流れ込み、脳が疲れてショートしてしまいます。
「うるさーい!」と叫んでしまう方は、たくさんの音で脳がくたくたになっている可能性があります。
騒音が続くことで不安・混乱を招く
クリスティーンさんは「ショッピングセンター、診療所、ディケアのようなところに行くと、ラジオやテレビの音、電話の鳴る音、人の話し声などの雑音があり、人の往き来が激しい。それはまるで泡立て器のように、頭のなかをかき混ぜてしまう」とおっしゃっています。そこで「耳栓をして行くことにした」とも書いておられます。
夕暮れ症候群という言葉をご存知でしょうか。
認知症がある高齢者が、夕方になると落ち着かなくなる状態のことを指します。
この原因は諸説(見当識障害,意識の変動など)ありますが、日中の多すぎる刺激が一因という説があります(ユマニチュード基礎研修より)。
日中たくさんの刺激が脳に流れ込むと、夕方ごろになると脳が一杯一杯の状態になります。
脳がもう働く余裕がなくなることが、夕暮れ症候群の原因となると一説には考えられています。
ちょうどコップに水が一杯になり、溢れ出てしまうように。
静かな時間を
では、私たちはどうすればよいでしょうか。
それは、静かに過ごせる時間を作ることです。
音であふれかえる環境から離れ、静かに過ごせる時間を作ることで、脳を休めることができます。
短時間の昼寝も効果的です。
リラックスしてゆっくり静かに過ごす時間は、脳を休めて記憶を整理・固定する働きが生まれます。
(脳の一部・後帯状回によるデフォルトモード・ネットワークの働き 畿央大学教授:森岡周氏)
落ち着ける場所を
大半のディケアでは、とくに熱心にかかわろうとしている施設ほど、「逃げ場」がないことが多い。つまり、刺激が氾濫する時間帯が多く、感覚のスクリーニングがうまく機能しない人は「うるさい」と感じる。その結果、混乱し、いらいらして行動にまとまりがなくなってしまう人は確かにいる。
(「認知症とは何か」 著:小澤勲 より一部引用)
このように、特にデイケアなどで落ち着ける場所がないことも少なくありません。
例えば、私の職場の施設では、難聴の患者様のご要望でTVが大音量になっていることがありました。
しかし、認知症の患者様は「音量が大きいから下げてほしい」とおっしゃる方はほとんどおられませんでした。
「音量を下げてほしい」と言えない方々こそ、騒音があふれる環境で大きなストレスをためられている恐れがあると感じました。
そんなときは、落ち着ける場所を別に作っておくことが大切です。
デイケアであれば、音が届きにくいスペースを確保し、ゆっくり過ごせる環境を作るとよいと思います。
また、施設・病院であれば、自分のお部屋でゆっくり過ごすお誘いをしてみるのも良いかもしれません。
音の問題以外にも、談話室などの共有スペースで過ごす時間が多すぎると、それも認知症の方にとっての大きなストレスとなる可能性があります。
「少し静かなお部屋でゆっくりしませんか?」
と声をかけてみるのも大切です。
まとめ
今回は、音の刺激の影響についてお話ししました。
・・今日のポイント・・
- 認知症の方はたくさんの音を脳で処理することが難しい
- 騒音が続くことで不安・混乱を招く
- 静かな時間を
- 落ち着ける場所を
認知症の方々にとって、多すぎる音の刺激は脳を疲れさせてしまいます。
さらに「たくさんの音で疲れる」と訴えることができる人は多くありません。
ぜひ「音は大きすぎないかな?」「落ち着ける場所と時間は取れているかな?」という視点から見てみてください。
今回は触れませんでしたが、認知症の方々にとって疲れ果てる原因は、音だけではありません。
脳の機能が低下していく中で、いつも頭をフル回転させていないと生活していけないギリギリの状態であることもあります。
また、自分がそんな状態にあることを周りに気づかれないように、必死の努力をされている人も数多くいらっしゃいます。
そんな認知症の方々の生きづらさを知ることで、安心して過ごせるサポートができるのではないかと私は思います。
この記事があなたと認知症のご家族にとって安心できる環境づくりのヒントになれば嬉しいです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
参考資料:「認知症とは何か」著:小澤勲,ユマニチュード基礎研修,リハノメ講座「脳の構造と機能」森岡周