あなたの大切な方の介護、毎日本当にお疲れ様です。
今回は、アルツハイマー型認知症によくみられる物盗られ妄想の裏に隠された背景についてシェアしたいと思います。
物盗られ妄想の標的になったご家族は、大変苦しい思いをされていると思います。
物盗られ妄想の背景を知ることで、少しでもあなたの苦しみが軽くなれば嬉しいです。
しっかり者の女性がおちいった袋小路
あるしっかり者の女性がいました。
責任感が強く、他の人の仕事もすすんで引き受け、周りからも頼りにされていました。
やがて祖母となり、家に嫁いできた嫁にはしっかり者のお義母さんとして頼りにされていました。
得意料理の肉じゃがは、嫁から「さすがお義母さんの味付けですね!」とよく褒められていました。

・・しかし、ある時から物忘れがあらわれ始め、鍋を焦がすなどの失敗が目立つようになりました。
この頃から嫁に向かって、「私の指輪、あなたが盗ったんでしょ!この人でなし!」とことあるごとにつっかかるようになりました。
もっとも信頼すべき介護者に向けて、このような言葉が投げつけられます。
一生懸命世話をしているにもかかわらず、そのような言葉を言われると、介護者は途方に暮れてしまいます。
受け入れがたい現実の中で自分を保つための方法
教科書には
「物盗られ妄想は、認知症のよくある周辺症状です」
「一緒に探してみて、見つかったら落ち着くことがあります」
とよく書いてあります。
それは物盗られ妄想の表面をすくったにすぎません。
この女性にとって、嫁から頼られる立場から、今後嫁から世話をしてもらわなければならない立場に変わる(落ちる)ことは簡単に受け入れられることではなかったはずです。でも、世話を受けなければ生きていくことはできません。世話を受けたくない気持ちが強い反面、助けてほしい気持ちも同じくらいあります。
これから世話を受け続ける立場に回るが助けてほしいとどうしても言えないという受け入れがたい現実を受け入れなければならないという袋小路で、自分をどうにかして保つための方法が物盗られ妄想です。
偏見を生むとよくありませんが、物盗られ妄想をもつ方の性格特性はメランコリー親和型が多いと言われています。
いわゆる真面目なしっかり者で、エネルギーに満ち溢れ、年より若いと言われ続けてきた方々です。
メランコリー親和型性格の方々は鬱病になりやすいことで知られています。
このような方々は
「世話をするのは得意だが、世話をされるのは苦手」
な方々が多いと言われています。
だからこそ、「物盗られ妄想」が一番身近な介護者に向けられる理由は、「絶対世話になりたくない!」という攻撃する心があり、また同時に「本当は頼りたい。助けてほしい。」という反対の気持ちがあるするためだと小澤氏は述べています。
「なぜ最も依存すべき相手に攻撃性を向けるのか」の答えは、一番信頼している人だからです。もしあなたが物盗られ妄想で攻撃されているなら、あなたのことを一番信頼している証拠なのです。
実際に、物盗られ妄想が消失したあと、多くの事例で妄想対象だった人間が「最も頼りにされる存在」に変わるという事実があります。
受け入れがたい現実をどうにか受け入れることができた時、他者を頼りつつ生きるという新たな生き方に移ることができるのかもしれません。
あなたが取るべき行動4つ
「あなたが盗ったに違いない!」と物盗られ妄想で攻撃されることは、非常につらいものです。あなたの人格まで否定する発言が次々に浴びせられることもあるでしょう。
あなたが物盗られ妄想を向けられた時、あなたが取るべき行動を紹介します。
- 一緒に探そうと伝える
- 本人に探し物を見つけさせる
- 本人が役割をもてる場を作る
- 介護サービスの利用
一緒に探そうと伝える
「財布がない!あなたが盗ったんじゃない?」と言われたら、あなたは「私は盗ってなんかない!」と言いたくなりますよね。
そういう気持ちを抑え、「財布がなくて困ってたんだね。一緒に探そう」と声をかけてみてください。最初の一言を共感から始めることがとても重要です。
また、自分が置き場所を忘れていると指摘されることは、本人にとって一番言われたくない言葉です。
- NG例: 「私は盗ってないよ!」「自分でしまって置き場所を忘れてるんでしょ!」
- OK例: 「それは大変!財布なものがないと困るよね。一緒に探そうか?」
本人に探し物を見つけさせる
財布を探しているとして、もし財布をあなたが先に見つけても、「ほら、ここにあったよ」と持って行かないでください。あなたが財布をもって本人の所へ行くと「あなたが隠してたんでしょう!」となる場合があります。
もし財布を見つけたら、それとなく本人が見つけられるように促します。
- NG例: 「ほら、タンスの中にあったよ。置き場所を忘れてただけじゃない」
- OK例: 「タンスの中は探した?まだだったら探してみて」
自分で発見することで、あなたに攻撃の矛先が向くことを避けることができます。ただし、「あなたが盗ったのをここに置いた」などと言われることもあると思います。それは、「一番信頼しているあなただから」そう言ってしまうと捉えてください。本当は気持ちのやり場がなく、助けてほしいのです。
本人が役割をもてる場を作る
本人に小さくても活躍できる場(仕事や役割)をもっていただくことが大切です。例えば、小さな役割とは以下のようなものがあります。
- 皿洗い
- 洗濯ものたたみ
- 配膳
ここでもし不手際があったとしても、指摘しないようにしてください。例えば、少しくらい洗い残しがあったとしても、後で洗いなおせばよいのです。重要なのは、「ありがとう!助かったよ」と感謝される機会があるということです。
- NG例: 「お母さんは洗い残したりするから、私が洗っとくよ」
- OK例: 「お母さん、洗いものお願いできる?」「助かったよ、ありがとう」
小さな役割を持つことで、世話を受ける側に回ってしまうという気持ちを少なくできますし、自信を取り戻すことができます。認知症になると一生ミスを指摘される人生になってしまいかねません。そこであなたからの感謝の一言があれば、生きる希望が生まれることもあると思います。
関連記事:役割こそ認知症の方に最も必要なもの 認知症となってもできることの見つけ方
私が出会った物盗られ妄想がみられる方は、ありとあらゆる物を盗られたと話される方でした。しかし、作業活動で活躍の場をつくり作品が評価を受けるようになると、自然と物を盗られるという発言は減っていきました。
介護サービスの利用
もしあなたが介護サービスを十分に使わていなかったとすれば、ぜひ積極的に使うことをおすすめします。例えば、デイケアやデイサービスなど。
理由は2つあります。
- 第三者を入れるほうがあなたと本人の関係は良くなる
- あなたの心と体に余裕がなければ対処法がわかっても取り組めない
うまくいっていない関係の2人がいたとして、いくら2人だけで時間を過ごしても関係は改善しないことはあらゆるところで見られます。例えば、戦争している2つの国に、第3国が仲介に入るなど。何事も2者関係よりも3者関係の方が関係はよくなるきっかけを作りやすいのです。
また、物盗られ妄想で攻撃を向けられることは、心も体も疲れ果ててしまうことでしょう。物盗られ妄想の対処法と背景を知ったとしても、あなたに余裕がなければ元も子もありません。
そのため、デイケアやデイサービスを十分に利用する(必要に応じてショートステイも)ことで、あなたは本人とある程度の距離を置くことができ、心の余裕を作ることができます。
デイケアやデイサービスで本人が活躍できる活動が提供されていれば、さらに良い効果が期待できます。同じような状況の仲間と交流することだけでも、本人にとってリフレッシュになると思います。
関連記事:【専門家が解説】認知症の家族との関わり方|本人も家族も心が軽くなる5つのヒント
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まとめ
攻撃を向けられることはとても苦しく、怒りが湧いてきますよね。
ただ、あなたの家族も苦しんでいて、どうしようもない気持ちをもっていることも確かです。そしてあなたのことを一番に信頼しています。だからこそ、あなたを攻撃してしまうのです。
もし物盗られ妄想のご利用者様に出会ったら、その裏の心の声に耳を澄ませてみてください。そして、心の声をくみ取った対応をすれば、よい方向に向かう可能性は十分にあると私は思います。
物盗られ妄想が落ち着いたあと、攻撃を受けていた人は最も信頼される人に変わるという事実があります。この先ずっと妄想が続くわけではないと思って、上記の対処法をやってみていただければと思います。
そして、子育てと同じように、介護にも終わりがあります。
介護の終わりを迎えた後もあなたの人生が燃え尽きることなくご自分の人生を生きられますように。
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この記事が少しでもあなたとご家族の心に寄り添える材料となったら幸いです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
参考文献 : 「痴呆を生きるということ」小澤勲 著
