認知症の方へどう話しかけていますか?ほとんどの人が知らない4つの言葉を伝えるポイント 脳科学から見た言葉と脳と行動の関係

認知症の知識

あなたの大切な方の介護、毎日本当にお疲れ様です。

「三振したらケツバットだぞ!」と言われて打席に立った選手は、三振してケツバットになる。

この例から、認知症のご家族へ言葉を伝えるポイントを脳科学の視点からお伝えします。

少し難しい部分もありますが、最後まで読んでいただければ、認知症の方へのより伝わる言葉かけがわかるようになります。

※以下の記事は、私個人の見解を含みます。

・・今日のポイント・・

  • ストレートな言い回しを
  • 選ぶ余地を作る
  • 前向きな言葉を
  • 言葉の力を信用する

三振したらケツバットだぞ!と言われて打席に立った選手は三振してケツバットになる

今日は言葉の受け取り方と脳の仕組みについて紹介したいと思います。

今回は、認知症に限らない話です。

「もし三振したら、ケツバットだぞ!」と監督に言われて打席に立った選手は、三振してケツバットになる確率が上がるというお話です。

(globis講座「現場が変わるコミュニケーション」(株)イノベイティア代表の平本あきお より)

言葉をとらえる際、脳には以下の2つの回路が働いています。

① 文脈を理解して考える回路

② 文脈を理解せず、単語からイメージする回路(グーグルの画像検索のようなもの)

①の回路では、「三振したらケツバットなので、打たなきゃ」と文脈を踏まえて意味を理解します。

一方で②の回路は、一言で言えばグーグルの画像検索のイメージがそのまま脳に入り込みます。

「三振したらケツバット」という文をグーグルの画像検索すると、どんな画像が出てくるでしょうか??

ヒットを打っている画像は出てこないで、三振している画像・ケツバットの画像しか出てこないでしょう。

②の回路により「三振」「ケツバット」が鮮明な画像イメージとして脳に入り込み、その結果三振してケツバットになる確率が高くなってしまいます。

駅のホームで「駆け込み乗車はおやめください」と書いたところ、駆け込む人が増えたのは②の回路が働き、「駆け込み乗車」のイメージが刷り込まれたためです。

「駆け込み乗車はおやめください」の画像イメージ

逆に「次の電車をお待ちください」と書いたところ、待つ人が増えたのも②の回路によるものです。

「次の電車をお待ちください」の画像イメージ

「次の電車をお待ちください」と書いてあれば、「次の電車を待っている」様子のイメージが脳に刷り込まれます。

ちなみにこれは私の主観ですが、認知症の方々は②の回路(グーグルの画像検索)で言葉を受け取られる傾向が強いという印象があります。

認知症の方々の場合は、言語理解の能力が低下している場合が多いためだと考えられます。

認知症の方々にとっては、ストレートにしてほしい行動を伝える方がいいと私は考えています。

例えば、「急いで立つと危ないです」よりも「ゆっくり立っていただけますか」が伝わりやすいです。

なぜなら「急いで立つと危ない(ので、ゆっくり立ってください)」という文章が隠れているので、少しだけ遠回しな言い方になってしまっています。

さらに「急いで立つと危ない」には「急いで立っている様子」の画像イメージが刷り込まれるので、急いで立ちやすくなってしまう可能性があります。

認知症の方には、遠回しな言い方ではなくストレートにしてほしい行動を伝えましょう。

言い回し次第で伝わりやすさは変わります

選ぶ余地を作る

以下の2つの言い方を比べてみましょう。

①「手を洗ってください」

②「手を洗ってくださいますか」

①も②も手を洗ってほしいことを伝えています。

ただ、①には言われた方に選ぶ余地がありません。一方的に洗ってほしいことを伝えられたのみで、命令的になってしまっています。言われる側も、圧迫感を感じてしまいます。

一方で、②には言われた側に選ぶ余地があります。洗うか洗わないか、自分で決めることができます。

この小さな言い回しの差は、認知症の方々にとって大きな差になります。

認知症になるとできることが徐々に減り、自分のことを自分で決める機会も少なくなりがちになります。

「~しませんか」「どちらがいいですか」という言い回しにすることで、するかしないか自分で決める選択の余地を作ることができます。

自分のことを自分で決めること(=自律)は、認知症の方々が人間らしく生きていくうえで大切な要素です。

ぜひ毎日の言葉かけの際に「~しませんか」「どちらにしましょうか」などの言葉で選ぶ余地を作り、認知症の方々に好きな方を選んでいただいてくださいね。

前向きな言葉を

認知症がある方々と接するときは、前向きな言葉を使いましょう。

アファメーションという言葉をご存知でしょうか。

アファメーションとは、前向きな言葉を繰り返し言い聞かせることで良いイメージを刷り込み、自分の自信(自己肯定感)を高める方法です。

アファメーションは自己肯定感を高め、行動を変える方法としてビジネスや教育にも生かされています。

前向きな言葉を使うことは、認知症がある方々の不安を和らげ、前向きなイメージを作る助けとなります。

私も作業療法士の仕事をする際、「大丈夫ですよ」「○○さんなら絶対できます」「すごく上手になりましたね」という声掛けをたくさんするように心がけています。前向きな声掛けをたくさんするほど、徐々に自信がついてこられるのを日々感じています。また、良くなったところを具体的に声掛けすることで、さらにその部分が良くなる傾向があると私は思います。

ただし、思ってもいない前向きな言葉を使うのは良くないと私は感じています。例えば、歩ける見込みがない方に「絶対に歩けるようになります」など。自分がそう思っていないことは言葉の端や態度に表れてしまい、それは相手にも伝わってしまうからです。素直に思っている良いところを言葉にして伝えると良いと思います。

前向きな期待を持って接することは、ピグマリオン効果も期待できます。

ピグマリオン効果とは「この人は優秀だと思い込みながら接していけば、その人は優秀になる傾向」を指すものです。

1964年、サンフランシスコの小学校での実験では、「このグループの子供たちはこれから成績が伸びる」と教師に伝えたところ、そのグループの子供たちの成績が伸びたという結果があります。

逆に、期待しないで接していけば成績が落ちる傾向があることをゴーレム効果と呼びます。

(※ただし、実証されておらず再現性がないとう批判もあります)

認知症の方々についても、「この方はできる」という気持ちをもって接することで能力を引き出しやすくなると私は感じています。

認知症となりできることが減っていく中で、介護者である私たちこそ認知症の方々はできる力があると信じ、支援をしていけたらいいですね。

言葉の力を信用する

これは私の臨床で日々感じていることです。

認知症となると大きな不安とともに生きていかなければなりません。

できることは徐々に減っていき、今の記憶も失われていきます。

ここがどこなのか、周りが誰なのかもわからなくなっていきます。

そんな中で、私たちの言葉は思った以上に大きな影響を認知症の方々に与えていると感じています。

「○○さん、大丈夫ですよ」

笑顔で伝えるこの一言は、私たちが思う以上の安心感を与えていると私は感じています。

ときに言葉には、私たちの認識していない部分でも行動に影響を与え、生き方さえ変える力があると私は思っています。

東京大学大学院修士で日本人では数少ない「米国アドラー大学院修士号」取得者である(株)イノベイティア代表の平本あきおさんも、このような脳と言葉と行動の関係は大きな力があると言及されています。
(globis講座「現場が変わるコミュニケーション」より)

自分の言葉ひとつひとつに力があることを知り、自分にも周りにも良い言葉を選んで使いたいですね。

認知症の方々にも、愛情のこもった前向きな言葉をたくさんかけてあげてくださいね。

まとめ

今回は、認知症の方々に言葉を伝えるときのポイントについてお伝えしました。

・・今日のポイント・・

  • ストレートな言い回しを
  • 選ぶ余地を作る
  • 前向きな言葉を
  • 言葉の力を信用する

会話は言葉のキャッチボールです。

前向きな言葉のボールを、認知症の方が取りやすいように投げたいですね。

認知症の方から投げ返される小さなボールも、うまくキャッチしてみてくださいね。

時にそれは言葉ではなく、表情や態度・行動かもしれません。

きっと認知症の方々は受け取ってほしいと願われているはずです。

キャッチボールの中からあたたかな絆を作ってくださいね。

言葉かけの際には、私たちの表情・声のトーン・視線などにも気を配ってみてください。

これは別の記事「認知症の方に安心感を与える話し方 3選」で詳しくご紹介します。

この記事が少しでもあなたの参考になれば嬉しいです。

最後まで読んでいただきありがとうございました。