はじめに
「認知症と診断されたけれど、あとどのくらい一緒にいられるのか?」
そんな疑問や不安を抱えるご家族は多くいらっしゃいます。
実は、認知症には種類があり、それぞれに進行のスピードや余命の目安が異なることをご存知でしょうか?
この記事では、日本でよく見られる「4大認知症」について、
- 種類ごとの平均余命
- 余命に影響する因子(リスク・予防)
- ご家族にできる対応のヒント
を、根拠に基づいてできるだけわかりやすく解説します。
4大認知症とは?
現在、日本で多く診断されている4大認知症は以下の通りです。
- アルツハイマー型認知症
- 血管性認知症
- レビー小体型認知症
- 前頭側頭型認知症
それぞれの特徴と、余命の違いについて詳しく見ていきましょう。

① アルツハイマー型認知症

平均余命 6〜8年
もっとも多く見られる認知症で、物忘れから徐々に始まり、進行は比較的ゆるやかです。記憶や見当識(時間や場所の感覚)が衰えていき、最終的には生活全般に介助が必要になります。
余命に影響する要因
- 高齢での発症(85歳以上)では予後が短くなる傾向
- 低栄養や脱水による免疫低下
- 認知機能が重度に低下すると誤嚥による肺炎リスクが増える
家族へのアドバイス
- 食事や水分補給を丁寧にサポートする
- 転倒予防と適度な運動を意識する
- 安心できる日常環境を保つことで、進行を穏やかに
(参考:Xie et al., 2008/Meguro et al., 2007)
関連記事:平均余命8年 多くの家族が知らないために後悔しているアルツハイマー型認知症の重要な知識とは
② 脳血管性認知症

平均余命 3〜5年
脳梗塞や出血など、脳の血流が切れる・詰まることが原因で起こる認知症です。
もともと動脈硬化により血管が詰まりやすいことが背景にあります。突然に発症することがあり、再発や他の病気と重なりやすいため、余命は短くなる傾向があります。
余命に影響する要因
- 脳卒中や心筋梗塞などの再発
- 糖尿病、高血圧、腎臓病などの持病
- 歩行障害による転倒・寝たきり
家族へのアドバイス
- 生活習慣病の管理(血圧・血糖)※血圧の薬を忘れずに飲む
- 転びにくい室内の環境づくり(手すりの設置やつまずきにくくする工夫など)
- リハビリや運動により動ける状態を保つことがカギ
(参考:坂口尚司 他, 2012/Rountree et al., 2012)
関連記事:脳血管性認知症は『プライドの高い男性社長』 アルツハイマー型認知症との大きな違い5選
③ レビー小体型認知症

平均余命 3〜6年
パーキンソン病に似た症状(ふるえ・筋肉が固くなる)やまぼろしを見る(幻視)、調子のよい時とそうでない時の波が大きいなどが特徴的な認知症です。
歩くときなどにバランスをとることが難しくなりやすく、転倒する危険性が高まります。また、むせやすくなり誤嚥性肺炎のリスクが高く、余命が短くなるケースが多いです。
関連記事:2割の認知症の方はざしきわらしを見る 多いのに知られていないレビー小体型認知症の特徴5選
余命に影響する要因
- 起立性低血圧による転倒や骨折
- 誤嚥(むせ)による肺炎
- 服薬バランスの難しさによるせん妄
家族へのアドバイス
- 室内環境を整え、転倒防止対策を
- 食事は誤嚥対策を取り入れる
- 睡眠リズムを崩さないような介護を
(参考:中村雅俊 他, 2020/Velayudhan et al., 2014)
④ 前頭側頭型認知症

平均余命 3〜11年(個人差大)
若年性認知症に多く、人格や行動が大きく変化するのが特徴です。身体機能が保たれているために、事故や問題行動が命に影響するケースもあります。
余命に影響する要因
- 衝動的な行動による事故やケガ
- 不適切な食事や、食事をとらないことによる低栄養
- 嚥下障害が進むと誤嚥のリスクが高まる
家族へのアドバイス
- 「やめて」「こうして」といった否定・矯正を避け、「役割」を与える
- 安心できる生活リズムや環境づくり
- 摂食・嚥下機能(食べる・飲み込む能力)を早めに評価する
(参考:加藤健太 他, 2018/Möller et al., 2017)
認知症の余命に共通して影響する5つの因子
認知症の種類にかかわらず、共通して余命に影響を与えるものがあります。
- 発症年齢(高齢になるほど短命)
- 性別(男性のほうがやや短命傾向)
- 低栄養・脱水(免疫低下・誤嚥リスク増)
- 合併症(心疾患、糖尿病、脳卒中など)
- ADL(歩行・排泄・食事などの日常動作)の低下
まとめ:余命よりも大切なことは その人らしく生きること
認知症と診断されたからといって、すぐに余命が決まるわけではありません。
- 発症後も本人の暮らし方や介護の質で余命は変わります
- 生活習慣や合併症管理で、5年、10年、それ以上の期間を元気に暮らす方も多くいます
- ご家族の関わり方が、余命だけでなく人生の質(QOL)を高める鍵となります
長く生きるだけでなく、その人らしく生きられる時間を延ばすことを大切にしていくことが大切だと私は思います。
認知症と診断されたからといって、残りの人生を「何もわからない人」「何もできない人」と周囲から扱われて過ごすことは苦しいことです。一見周囲から意味の分からない言葉や行動があったとしても、全ての言動には意味があります。言動の理由がつかみにくいだけなのです。
例えば、財布の場所を変えたことを忘れたのではないか?と尋ねた場合、「私は忘れていない」と意固地になって認めないことがありますよね。ですが、認知症の方にとって「忘れた」のではなく、財布の場所を変えたこと自体の記憶がないのです。「忘れた」というより、「記憶がない(財布の場所を移し替えて忘れたわけではない)」世界に生きられていることは、周囲の目からすると言い訳がましく見えることもあるかと思います。
認知症とともに生きるということは、周囲から理解されにくい世界を生きることとなります。そんな中で、介護者であるあなたに理解されて生きることは、どんなに心強いことでしょう。
そして、認知症になってからも残された力はたくさんあります。すべての世話をされて生きるよりも、できる力を使って役に立ちながら生きたい・必要とされたいと全ての認知症の方は望まれています。
関連記事:役割こそ認知症の方に最も必要なもの 認知症となってもできることの見つけ方
加えて、認知症になってからの幸福度は、認知症でない人たちが想像するよりもずっと高いという研究もあります。認知症になれば大変なことも多いですが、すべてが不幸であるわけではないのです。
認知症と診断されてショックを受けられているあなたに伝えたいこと、それは、現在がどんなに大変だとしても介護には終わりがあるということです。しかし、あなたの人生はそこで終わりではありません。介護中に、介護の終わりにあなたご自身が燃え尽きてしまわないように。そしてあなたの幸せをきっと認知症と診断された大切なご家族も望まれているでしょう。あなたご自身が笑顔でいられますように。
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最後までよんでいただきありがとうございました。
大切なご家族だけでなく、あなたご自身が笑顔でいられますように。
参考文献(抜粋・簡略表記)
- Xie, J. et al. (2008). Survival in Alzheimer’s disease. BMJ.
- Meguro, K. et al. (2007). Psychogeriatrics, 7(3), 132–139.
- 坂口尚司 他 (2012). 日本認知症ケア学会誌.
- 中村雅俊 他 (2020). 臨床精神医学, 49(9), 925–932.
- 加藤健太 他 (2018). 精神医学, 60(2), 117–124.
- Möller, C. et al. (2017). Dement Geriatr Cogn Disord, 43(5–6), 256–265.
- Liang, C.S., et al. (2021). The Lancet Healthy Longevity, 2(8), e479-e488. [アルツハイマー型認知症と非アルツハイマー型認知症の死亡率・生存期間に関する系統的レビューとメタアナリシス]
- 小川朝生 (2016). 認知症の緩和ケア. 精神神経学雑誌, 118(11), 813-823. [日本の認知症病型別平均余命データ]