平均余命8年 多くの家族が知らないために後悔しているアルツハイマー型認知症の重要な知識とは

認知症の知識

あなたの大切な方の介護、毎日本当にお疲れ様です。

あなたは、アルツハイマー型認知症の方の平均余命は発症してから8年だということをご存知でしょうか?

多くのご家庭でアルツハイマー型認知症の重要な知識を知らずに介護をされていると感じています。

現場では、知らなかったために後悔される家族の方も見てきました。

今回は、教科書には載っておらず多くの人が知らないけれども介護をする上で絶対に知っておくべきアルツハイマー型認知症の重要な知識についてお話しします。

※以下の記事は、個人の見解を含みます。

・・今日のポイント・・

  • 生きづらさの一番の原因は大きな不安
  • 平均余命は8年
  • どんなに治療をしても進行する
  • 脳トレではなく生活支援
  • 認知症になってもできること
  • 支援を受けることに罪悪感をもたないで
  • 限られたかけがえのない時間を大切に

生きづらさの一番の原因は大きな不安

アルツハイマー型認知症はすべての認知症患者の2人に1人と言われており、最も患者数の多い認知症です。テレビなどで取り上げられる「いわゆる認知症」は、アルツハイマー型認知症のことだと思ってよいです。

もの忘ればかり注目される中で、あまり知られていないアルツハイマー型認知症の大きな特徴は、大きな不安です。

デイケア・デイサービスでそわそわ・きょろきょろして落ち着かない方がいれば、アルツハイマー型認知症のことがほとんどです。

なぜ大きな不安が特徴なのかというと、病気の進行でできないこと・うまくいかないことが増えた時、なぜできなくなっているのか・うまくいかなくなっているのか理由が自分ではわからないことが原因の一つです。

例えば、アルツハイマー型認知症ではついさっきの出来事をすっかり忘れてしまう(短期記憶障害)症状がありますが、忘れてしまっていることに自分では気付くことはできません。「ご飯まだ?」と10回言ったとしても、毎回初めてのつもりでご本人様は言っています。でも、「何回同じことを言うの!いいかげんにしてよ!」と言われて戸惑われるようなケースが毎日何度も何度も起こります。

記憶障害の他にも、今日が何月何日かやここがどこか、相手が誰か分からなくなる(時間・場所・人の見当識障害),道に迷う(空間認識の障害,地誌的見当識の障害),,着替えるなどの複雑な動作が難しくなる(失行)などがあります。これらも、なぜできなくなっているのか自分で気づくことはできません。

中でも特に生きづらさの原因となっているのが、状況や相手の気持ちを読めなくなる障害(社会的認知の障害)です。例えば、鍋を火にかけているのを忘れていて、煙が部屋に立ち込めたとします。家族は煙とにおいでびっくりして「鍋こげてるじゃない!」と言いますが、当の本人は「どうしたの?」ときょとんとしていることがあります。

これは病気の症状ではありますが、家族などのまわりの人々をイライラさせる原因となります。本人も、理由はわからないけれどまわりを困らせていることに気付き、苦しくなります。

このような生きづらさがありながら、なぜ生きづらくなっているのかわからないこと,記憶やまわりとのつながりなどの確かなものがどんどん不確かなものへ変わっていくことが大きな不安の原因であると考えられます。

私がとても大切だと思うのは、認知症のことを知ることです。アルツハイマー型認知症の方々はどんな症状を持っておられるのか・どんな生きづらさを抱えて生きておられるのかを知ることで、介護する側も心が受け入れやすくなります。逆に病気のことを知らないと、理由が分からないのでイライラが止まらなくなります。それでは介護する側も介護される側も苦しくなってしまうでしょう。

・・このブログでは認知症のことを知ってもらうために、専門家でなくてもわかりやい記事にして発信しています。他の記事も参考にしていただければ嬉しいです。

平均余命は8年

アルツハイマー型認知症(アルツハイマー病)は物忘れが進む病気だと思っていませんか??

確かに記憶障害が進むのは間違いありません。

しかし、平均余命は発症してから8年と意外にも短いのをご存知でしょうか。

(Alzheimer’s Association HPより。※進行は個人差があります

アルツハイマー型認知症は、もの忘れや徘徊などが注目されますが、脳がやせていき最後には命を奪われる病気(神経変性疾患)です。

残酷な事実ではありますが、このことは医療関係者でさえ盲点になりやすいことです。

最初は記憶障害が目立ちますが、徐々に脳の働きだけでなく体の機能も低下し、立ち上がることも難しくなります。できていたことは次第にできなくなり、起き上がれなくなったときに「歩けるうちにもっと一緒に出かければよかった」と後悔される方もおられます。最後には寝たきりとなり、重度になると飲み込む力が低下して誤嚥性肺炎や他の病気を合併して亡くなられるケースが多いです。そのため、直接の死因は誤嚥性肺炎などとなっていても、アルツハイマー型認知症が背景にある場合は多くあります。

余命について知らなければ、もの忘れの進行にばかり気を取られて、残された時間と能力の大切さに気付くことができません。進行することを考えれば、今目の前にいる認知症の方は「今が一番良い状態」です。今できることの多くは今後できなくなります。最も進行すれば、笑う能力さえ失われてしまいます。

どんなに治療をしても進行する

亡くなる原因の病気は

  • 1位 ガン(悪性新生物)
  • 2位 心疾患(心筋梗塞など)
  • 3位 脳血管障害(脳梗塞など)

となっています(厚生労働省HP 2021年統計より) 。

この3つの病気は、治療法が存在します。例えば、ガンであれば切り取ったり抗がん剤を使ったり放射線を使ったり。もちろん治療が難しいケースもありますが、全体として見れば治療法は確立していると言ってよいと思います。

しかし、認知症 特にアルツハイマー型認知症は、進行を遅らせることはできるものの、根本的な治療法は今のところありません。そのため、いくら薬を飲んでも、脳トレをしても、おおむね改善することはなく徐々に進行していきます

薬を飲むこと、脳トレをすることが意味のないことではありません。進行を緩やかにし、今できることを保てるようにする大切なことです。本人が苦にならずに自分から取り組めていれば問題ありません。

ただし

「認知症を治さなければ。もっと脳トレをさせなければ。運動も頑張ってもらって、食事にも気を付けて、認知症が進まないようにしなければ。」

努力を無理強いしてしまうと、認知症であるご本人は追い詰められてしまいます

毎日多くの脳トレを課す介護者の方もおられます。

認知症と共に生きることは、普段の生活を送るだけでもとても疲れます。

本人も認知症である語り部 クリスティーン・ブライデンさんは、以下のように述べています。

「朝起きると、今日は何曜日か、何をすることになっているのかが思い出せない。ただ、家でのんびり過ごすだけでも疲れ切ってしまう。お茶の入れ方、シャワーの使い方、服のあり場所、何を着るべきかがわからない。」

普通の生活を送るだけでも、脳をフル活動させる必要があるからです。その上、脳トレや運動を度を超えて無理強いすることは、苦痛以外の何でもありません。

普段の生活だけでも脳は頑張り過ぎています。

脳トレをしてもゆっくりと進行していくことを受け入れ、今できることや与えられている時間に目を向けましょう。脳トレだけに執着するよりも、今の生活を支えることや、不安に寄り添うこと,残された能力でやりたいことを精一杯してもらうことがもっと大切です。

脳トレだけでなく生活支援を

認知症とは、脳の働きの障害と勘違いされている方が多いように思います。

認知症とは脳の働きの障害を指すのではなく、脳の働きの障害により生活がうまく送れなくなった状態のことを指します。そのため、認知症により生活に困っていることを支えることが大切です。

具体的には、介護サービスを使ったり、自宅の環境を整えたり、地域で見守りできるようにしたり。

「脳トレやリハビリは必要ないの??」

とおっしゃる方もいらっしゃると思います。

脳トレやリハビリはとても大切なことです。続ければ脳の働きの低下を緩やかにすることができます。ただし、それだけでは生活の困りごとを解決することはできません。ましてや、脳の機能は徐々に衰えていくことは病気の性質上どうしようもないことです。そのため脳トレやリハビリだけに集中するのではなく、生活を支える環境づくりをしていくことが重要です。

生活を支えるとは、主に以下の2つです。

  • できない部分のみ介助する
  • できる環境を作る

例えば、毎週月曜と木曜がゴミ出しの日だとします。でも、今日が何曜日なのかわからないので、どうしてもゴミ出しの日を間違えてしまいます。

このような時、脳トレをして今日が何曜日かわかるように訓練することはとても難しいことです。

でも、ゴミ出しの日の朝、息子さんが電話をして「今日はゴミ出しの日だよ」と教えたらどうでしょう。今日が何曜日かわからなくなっても、ゴミを出せるかもしれません。

また、ゴミ出しカレンダーの横に大きな日めくり電波時計を置いてみるのもひとつの方法です。大きく今日の日付と曜日を表示するので、状態によってはうまくいくかもしれません。

このような支援が、できない部分のみ介助する(電話でゴミ出しの曜日を教える),できる環境を作る(日めくり電波時計が日付を教えてくれる)の一例です。認知症によりできないことが増えたとしても、支援を工夫することで生活を続けていくことができます。

認知症になってもできること

これまでアルツハイマー型認知症になるとできなくなることばかりを述べてきましたが、できることは同じくらいたくさんあります。

病気の進行とともに、できないことは増えて支援が必要になる割合は増えていきます。

しかし、できないことが増えることばかりに目を向けていると、せっかくたくさんのできることがあっても気付くことができなくなります。

「アルツハイマーになると、できることなんてほとんどないよ」

と思われている方も多いのではないでしょうか。

実際に介護をされている方は「できなくなった」印象が強くて、「できる」ことをイメージするのが難しいのももっともです。

では、アルツハイマー型認知症の方々にできることとはどんなものがあるのでしょうか。

それは例えば次のような活動です。

  • 長年やりなれた習慣・・仕事で長い間やってきたことは体に染みついている
  • コミュニケーション・・空気を読むことは難しくなるものの、会話の能力は比較的保たれる
  • 運動・・難しいものでなければ重度になるまで運動する能力は保たれる
  • シンプルな作業・・やすり掛けなどの1つの工程のみの作業はこなしやすい

特に長年やりなれた習慣は、アルツハイマー型認知症の方々にとって大きな強みになります。例えば、昔から着物の着付けをしていた方であれば、手際よく着付けをされることがあります。また、長年農業をされてきた方であれば、畑に行ったとたんに野菜の手入れをいきいきとされる場面はよく見かけます。

やりなれた習慣でなくても、シンプルな作業なら十分活躍することができます。例えば、品物のふくろ詰めだったり雑巾がけだったり。このような1工程の作業には活躍の場が多くあります。

くわえて、一緒に取り組む仲間がいたり、騒がしすぎない場所を用意することで、もっとできることは増えます。また、できない部分のみ支援をうけることで、さらに活躍の場は広がります。できることに集中して取り組むことで、不安は頭から離れ「私にもできることがある!」と感じられます。

できることが生きがいにつながります。

「注文をまちがえる料理店」をご存知でしょうか?

この料理店のホールで働く方はみんな認知症の方々です。注文を間違えることがありますが、お客様の理解があるので注文を間違えてもそれが店の魅力となっています。

このように認知症になってもできることはたくさんあります。さらに、まわりの支援があれば、できることはもっとたくさん生まれます。アルツハイマー型認知症の方々には、活躍の場がまだまだたくさん眠っています。

支援を受けることに罪悪感を持たないで

このポイントがアルツハイマー型認知症の方の介護で、最も重要だと私は思います。

「デイケアには行きたくない。息子のお前が介護をしろ。」

介護をしている父親にそう言われたら、あなたはどうしますか?

認知症の方の介護は、家族だけでやり続けていくのは私は絶対におすすめしません。

もし支援を受けずに家族だけで介護ができていたとしても、介護サービスなどの支援を受けずに介護を続けることは、息継ぎをせずに広い海を泳ぎ続けるようなものです。介護は何年続くかわからないだけでなく、頑張れば病気がよくなるものでもありません。介護が長引くにつれ、いつか家族は疲れ果ててしまいます。家族が疲れて自分の幸せを犠牲にしているのであれば、介護される側も幸せにはなれません。

まず、介護をされているあなたの心と体を一番大切にしてください。そして、介護を受けているあなたのお父さん・お母さん(お義父さん・お義母さん)を二番目に大切にすること悪いことと思わないでください。もし子供がいらっしゃる方は、お父さん・お母さんを三番目に大切にすることも良くないことと思わないでください。

私自身、親の介護と育児を同時にしていた(Wケア)ことがありました。「自分が頑張らなければ」と思い頑張り続けましたが、私の体重はどんどん減っていきました。気付かないうちに私の顔から笑顔が消え、家族にも余裕をもって接することができなくなっていました。この時、介護サービスを使っていましたが、それでも余裕はありませんでした。やせて疲れ果てた私の顔を見ていて、介護をされていた親はどう思っていたでしょう?

「親の世話は子供がするべき」という考え方が日本にあります。これは日本が儒教の影響を色濃く受けているため、当たり前と思っている方が多いように思います。

しかし、儒教のおおもとを作った孔子は、親の世話を子供の義務とは言っていません。親を大切に思う気持ちが大切で、世話は絶対の義務ではないと論語の中で述べています。日本に伝わった儒教は、孔子のもともとの教えからはズレてしまっています。

親はあなたの人生を犠牲にすることを望んでいるでしょうか?

あなたにこそ幸せになってほしいと思っているのではないでしょうか?

支援を受けることを悪いと思わず、介護サービスを利用することをためらわないでください。もしどうしても必要になった場合、入所サービスを利用することを受け入れてください。入所を選んだ自分を責めないでください。

介護を頑張られているあなたにまず幸せになっていただきたいと私は思います。

「介護には支援が必要」

これは病気の知識ではありませんが、介護に必要な知識だと私は思っています。

関連リンク:「わかっているけどイライラしてしまう」介護で行き詰まらないための楽になる方法

限られたかけがえのない時間を大切に

最初に、平均余命は8年とお伝えしました。これは今介護されている方を絶望させるために言ったのではありません。

事実と向き合うことで、限りある命と残された力の大切さを知ることができると私は思います。

「あのときもっと一緒にいてあげればよかった」

「もっと話を聞いてあげればよかった」

「歩けるうちに一緒に思い出の場所へでかければよかった」

このような後悔を、今一生懸命に介護をされている方にしてほしくありません。

ただ、アルツハイマー型認知症の方を介護される家族の方々は、まさに必死で頑張り続けられていると思います。怒鳴ってしまい自分を責めてしまうこともあるでしょうし、希望をもてなくなることもあるでしょう。

私が一番伝えたいのは、自分が頑張るのではなく、介護サービスを使えるだけ使ってください。「私が看なければ」という気持ちは置いておいてください。「大切にしたい」という気持ちさえあれば十分です。

現在の介護サービスは昔と比べて支援の質は大きく上がりました。また、認知症の方々がいかにいきいきと生活できるかについて専門性の高い方も多くおられます。家族のみで介護をしていては気付かないようなポイントを教えてくれることもありますし、より生活しやすくなるようなアドバイスをくれることもあります。

必要な支援を受け、ほんのわずかにできた心のゆとりを認知症となったご本人に向けてみてはいかがでしょうか。

命と能力にタイムリミットがある事実と向きあい、専門職の支援を受けながら「何もできない人」ではなく「認知症となっても輝き続けた人」として残りの人生を過ごしていただきたいと思います。

まとめ

まとめです。

・・今日のポイント・・

  • 生きづらさの一番の原因は大きな不安
  • 平均余命は8年
  • どんなに治療をしても進行する
  • 脳トレではなく生活支援
  • 認知症になってもできること
  • 支援を受けることに罪悪感をもたないで
  • 限られたかけがえのない時間を大切に

この中でも「支援を受けることに罪悪感をもたないで」というポイントが最も重要だと思います。これはアルツハイマー型認知症に限ったことではありませんが、専門家による必要な支援を受けることで初めて、あなたは自分を大切にし、目の前の方を大切にするわずかな心のゆとりが生まれると思います。

また、アルツハイマー型認知症について知ることも大切です。余命や症状について知ることで、受け入れる心が生まれます。

それに、今はユマニチュードという家族が学びやすい認知症ケアの技術もあります。ユマニチュードは認知症の方にも伝わるように「あなたのことを大切に思っています」というメッセージを伝える技術です。専門家でなくても学びやすく、家庭でも取り入れやすいことが特徴です。家庭で取り入れることで壊れかけた家族のつながりが劇的に改善した例もあります。ユマニチュードは、家族で介護されている方に一番学んでほしい認知症ケアの技術です。

書籍:「家族のためのユマニチュード」

私が伝えたいのは、介護する側も介護される側も幸せを諦めるのではなく、全員が幸せになる方法を探してほしいということです。誰かが犠牲になる幸せはよくありません。

無理のないように介護サービスを受け、認知症について勉強して理解する。

これがお互いに幸せになるための一番の近道だと思います。

参考になれば嬉しいです。

最後まで読んでいただきありがとうございました。