「もう限界…」介護のイライラが消える魔法のメンタル術5選

介護のストレスと気持ちの整理

「今日もまた、優しくできなかった…」 「どうして私ばかり、こんなに辛い思いをしなくちゃいけないの…」

毎日の介護、本当に、本当にお疲れ様です。 終わりが見えないトンネルの中で、つい感情的になってしまった自分を責めて、独りで涙を流してはいませんか?

こんにちは、家族専門認知症ケアアドバイザーのルカです。

まず、あなたに一番伝えたいことがあります。 介護中にイライラしたり、落ち込んだりするのは、あなたが弱い人間や冷たい人間だからではありません。また、あなたが介護に向いていないからでもありません。それは、あなたが大切な家族に真剣に向き合っている、何よりの証拠です。どうでもいい人やどうでもいいことであれば、怒りや落ち込みの感情など湧いてこないはずです。

この記事では、そんな風に頑張っているあなたの心が、少しでも軽くなるための具体的な「魔法のメンタル術」を5つ、ご紹介します。心理学的な根拠に基づいた、今日からすぐに試せる方法です。

本題に入るその前に、クイズです。

フリーゲンデ・ブラッター。 1892年。カニンヘンとエンテ

Q.この絵は何に見えるでしょう。介護を乗り越える方法は、この絵と同じです。この記事を最後まで読めば、この絵の意味が分かります。記事の最後に答え合わせをしましょう。

はじめに…「完璧な介護」という呪いを解きましょう

5つの方法をお伝えする前に、大切な心構えをお話しさせてください。 それは、「完璧な介護者になろう」と思わないこと。

100点満点の介護なんて、この世のどこにも存在しません。認知症ケアを専門としている私でも、毎日が試行錯誤の連続です。60点で上出来。時には0点の日があったっていいんです。苦しいとおっしゃる方々に共通するのは、「自分に厳しすぎること」。

まずは、「イライラしちゃダメだ」という自分へのプレッシャーを少しだけ緩めてあげるところから、始めてみませんか?

あなたご自身がまずあなたの最高の味方で、あなたをもっとも認めてあげられる人になってみましょう。

関連リンク:【専門家が解説】認知症の家族との関わり方|本人も家族も心が軽くなる5つのヒント

メンタル術1:【応急処置】イラッとしたら「6秒深呼吸」で体からクールダウン

カッとなった感情は、最初の「6秒」がピークだと言われています。これはアンガーマネジメントという怒りをコントロールする心理学の手法でも使われる、とても効果的な応急処置です。

次に「もう!」と感情が爆発しそうになったら、心の中でゆっくりと6秒数えるのと同時に、一本だけ「ゆっくり、ふかーい呼吸」をしてみてください。

1…2…3…(鼻から息を吸って)…4…5…6…(口からゆっくり吐いて)

実は、深呼吸は単なる気休めではありません。高ぶった感情の「アクセル(交感神経)」を鎮め、リラックスの「ブレーキ(副交感神経)」を優位にする、医学的な裏付けのある行動なのです。

深い呼吸をすると、体中のリラックス神経(迷走神経)が刺激され、高鳴っていた心臓の鼓動や血圧が自然と落ち着いていきます。これは、厚生労働省のe-ヘルスネットなどでも推奨されている、信頼性の高いストレス対処法です。

6秒待つだけでなく、深呼吸を一本組み合わせることで、心だけでなく「体から」怒りをクールダウンさせることができますよ。どちらかといえば私は6秒待つことよりも、深呼吸の方が大切だと感じています。

私自身も出勤の際や休憩時間には深呼吸の時間を必ず取っています。すると、簡単な割にとても大きな効果を感じています。毎日ほんの少しでも継続すると、効果はさらに大きくなっている感覚があります。「6秒なんて数えてられないよ!」という方も、気持ちがイライラしたと感じるときに、深呼吸1回を習慣にしてみてはいかがでしょうか。きっと思った以上に効果を感じられると思います。

メンタル術2:【根本治療】心を縛る「言葉の呪い」を解く魔法

私たちの脳は、自分が発した言葉を一番よく聞いています。 「本当に大変だ」「疲れた」「もう限界だ…」 この言葉を繰り返すと、脳は「自分は大変で、疲れていて、限界なのだ」という自己暗示をかけてしまい、ますます辛い状況に自分を追い込んでしまいます。

これは心理学でいう「自己成就予言」という心の働きに近いものです。自分にかけた言葉通りの現実(とらえ方)を、脳が作り出そうとしてしまうのです。

もちろん、無理にポジティブになる必要はありません。でも、もし少しだけ心の余裕があるなら、口癖になっている言葉を、ほんの少しだけ変換してみませんか?

心を軽くする「言葉の変換スイッチ」

例えば、こんな風に言い換えてみましょう。

▼「今日も一日大変だった…」

      ↓

◎「今日も一日大変だったけど、なんとかできた。私はやれている。」

▼「なんで言うことを聞いてくれないの!」

     

◎「どうすれば気持ちが伝わるかな?きっとなんとかなる。」

▼「疲れた…」

     

◎「疲れたけど頑張った証拠。私はやれている」

▼「いつまで続くんだろう…」

     

◎「今日できることはここまで。私は十分やれている。気持ちはあの人にちゃんと伝わっている」

言葉を変えることは、自分自身のとらえ方を書き換える作業です。「ダメな私」から「大丈夫な私」へ。

あなたがどうしてもそう思えなくても、まずは言葉だけでも変えてみましょう。

もしどうしても愚痴をこぼしたくなったとき、最後の言葉尻だけでも前向きな言葉を付け加えてみてください。例えば、「もうダメだ」から「もうダメだと今日は思ったけど、なんとかなった。私はよくやってる。明日は大丈夫」

この小さな習慣が、あなたのとらえ方を言葉通りに書き換えていきます。これは認知的不協和理論という心理学の理論でも言われていて、言葉や行動どおりの考え方・捉え方をするように人間はなっていくのです。

私は前向きな言葉を言う習慣を、朝晩続けています。すると、自分のとらえ方が言葉通りに確実に変わっていることに気付いています。考えから言葉が出るのではありません。まず言葉や行動があって、考えが形づくられるのです。

明日こぼした愚痴の最後に、前向きな言葉を一言付け加えてみませんか?そこからあなたの介護に小さな光が差し始めると思います。

関連リンク:認知症の方へどう話しかけていますか?ほとんどの人が知らない4つの言葉を伝えるポイント 脳科学から見た言葉と脳と行動の関係

メンタル術3:【視点の転換】介護サービスは「あなたのため」に使う

デイサービスやショートステイの利用に、「本人を預けて自分だけ楽をするなんて…」と罪悪感を感じていませんか? その考え方を、今日から少しだけ変えてみましょう。

有名な「シャンパンタワーの法則」をご存知でしょうか。 一番上のグラス(あなた自身)がシャンパンで満たされて初めて、その溢れた分で下のグラス(大切な家族)を満たすことができる、という法則です。

介護サービスは、ご本人のためだけのものではありません。介護するあなたの心を空っぽにしないため、あなたの笑顔を守るために使う、あなたの正当な権利なのです。あなたが笑顔でいることこそが、ご本人にとって最高のケアになるのですから。

もし認知症が進行して、あなたの大切なご家族がご自分の気持ちをうまく伝えられなくなっていたとしても、あなたが疲れて笑顔をなくすことを望むでしょうか?きっとあなたには笑顔で元気でいてほしいと思われているはずです。

関連リンク:「わかっているけどイライラしてしまう」介護で行き詰まらないための楽になる方法

メンタル術4:【小さなご褒美】自分を大切にする時間を作る

「旅行に行く」「一日中寝る」そんな大きな休息は、現実的には難しいかもしれません。 大切なのは、毎日の中に、意識して「自分のための時間」を組み込むことです。

1日5分、好きな音楽を聴きながら温かいお茶を飲む。

・週に一度、コンビニで好きなスイーツを買って、誰にも邪魔されずに食べる。

・ご家族がデイサービスに行っている午前中だけは、介護のことを忘れてドラマを見る。

こんな些細なことでいいんです。「自分を大切にする」という許しを、あなたご自身が出してあげてください。まずは小さな1回で構いません。その小さなご褒美が、明日への活力になります。

私自身は、トイレに入ったときに深呼吸をして1分長めに座ります。また、通勤時間に前向きな言葉を口に出してみたり、好きなポッドキャストを聴くことにしています。それが自分を大切にする時間であり、心がリセットされていると感じています。

メンタル術5:【セーフティネット】感情の「ゴミ箱」を用意する

どんなメンタル術を使っても、一人で抱え込める感情には限界があります。ネガティブな感情は、溜め込まずに吐き出すことが鉄則です。

あなたのための「感情のゴミ箱(セーフティネット)」を用意しておきましょう。

・地域包括支援センター: あなたの地域にある、介護の総合相談窓口です。ケアマネジャーさんや専門職が、あなたの話を親身に聞いてくれます。

・認知症カフェ: 同じ悩みを抱える仲間と話すだけでも、「辛いのは私だけじゃなかったんだ」と心が軽くなります。

・かかりつけ医や信頼できる友人

独りで抱え込まないこと。それが、あなたの心を守るための最後の、そして最強の砦です。

ただし、愚痴をいったとしても、最後には前向きな言葉を付け加えることを試してみてください。そう思えなくても、前向きな言葉を加える習慣をもつことは、あなたが介護を続ける上で大きな力になると私は思っています。また、愚痴をいうあなたを、あなた自身が許してあげてくださいね。

まとめ

介護のイライラから心を軽くするための、5つのメンタル術をご紹介しました。

1.【応急処置】イラッとしたら「6秒深呼吸」で体からクールダウン

2.【根本治療】心を縛る「言葉の呪い」を解く魔法

3.【視点の転換】介護サービスは「あなたのため」に使う

4.【小さなご褒美】自分を甘やかす時間を作る

5.【セーフティネット】感情の「ゴミ箱」を用意する

フリーゲンデ・ブラッター。 1892年。カニンヘンとエンテ

A. 答え合わせです。この絵は何に見えますか?

「ウサギに見える」という方もいらっしゃれば「アヒルに見える」という方もいらっしゃるでしょう。

ウサギを見ているとき、アヒルは見えません。また、アヒルを見ているとき、ウサギは見えません。これと同じことが、介護にも起こります。自分の言葉と行動が、介護をどうとらえるかを形作るのです。

「希望のない介護」ととらえてしまえば、「介護の中にある小さな幸せ」は見えなくなります。逆に、「介護の中にある小さな幸せ」の方を見ようとすれば、介護の絶望感は消えていきます。

今は大変すぎてまったく前向きなとらえ方ができなくても、一言でもよいので前向きな言葉を発してみたり、深呼吸をしてみたり、ほんのわずかな自分を大切にする時間を取ってみたりすることで、少しずつ現実は変わっていきます。わずかな言葉と行動の変化から、現実は変わりうるのです。

介護をどうとらえるかは人それぞれ。そして完璧にすべきととらえる必要もありません。そして、あなた自身がこのサイトをここまでご覧になっていること自体が、あなたのご家族を心から大切にしたいと思っている証です。熱心であることは素晴らしいことです。ただ、私は、そしてあなたの大切なご家族は、あなたにこれからも笑顔で過ごしてほしいと心から願っています。

あなたがこれからも笑顔で過ごし続けるために、今日ご紹介した中で一つでも「これならできそう」と思えるものがあれば、一回だけでもいいので試してみてください。

そして何より、今日まで懸命に介護を続けてきたご自身を、どうか誰よりも優しく認めてあげてください。 あなたは百点です。そして、これ以上は求めなくてもよいのです。あなたのエネルギーは、これからはあなたご自身へ向けてあげてください。それは、あなたの大切なご家族も望んでいることですから。

そして、子育てと同じように、介護にも終わりがあります。終わりを迎えた後もあなたの人生が燃え尽きることなくご自分の人生を生きられますように。
関連リンク:4大認知症の「余命」とは? 種類別の寿命と影響因子をわかりやすく解説

最後まで読んでいただき心から感謝します。

あなたとあなたの大切な家族のこれからが、少しでも笑顔の多いものでありますように。

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